主上芳野の宮にて御歌の事
 
先帝の御時代、世の中はすっかり変わってしまって、先帝は吉野の行宮にいらっしゃった。いやな年も混乱のうちに暮れてしまって、立春の節会のありさまも、何となくいたましい。如月の半ばも過ぎた頃、先帝は、庭の桜が次第に咲き出したのをご覧になって、勾当内侍に仰せになった御歌は、

 爰にて 雲ゐの桜 咲にけり 唯かりそめの 宿とおもへど


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