天女歌の事
 
同じく先帝が、豊明の節会(新嘗祭)を催された時のこと。あまりに見苦しいありさまをお嘆きになって、布留山が間近に見えたので、

 袖かへす 天津乙女も おもひ出よ 吉野の宮の 昔語りを

とお詠みになり、ぼんやりと眺められたまま月が沈むころまでいらっしゃったところ、夢ともなく布留山の上方より白雲がたなびいて南殿のお庭の冬枯れした桜の梢にとどまったのだった。はっと気づかれると、しょんぼりとした乙女が

 返しなば 雨とやふらむ 哀しる 天つ乙女の 袖のけしきも

と泣きながら詠じ、雲に隠れてしまったのをご覧になって、おさびしそうにご寝所へ去っていかれたありさまが、なんとも忘れられない。


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