御歌の徳して雨晴れし事 一
 
先帝の御時代、五月雨が大そう長々と降り続いた頃、ほとんどの公卿たちが御前に集まって詩歌管弦などをなさっておられた。洞院実世卿が、

「川音も高く降る五月雨の中で、岩肌をも見せぬくらいに流れる滝の景色こそ、この上もなくよいものです」

と申し上げると、

「そうやなあ。空さえ晴れてくれればなあ」

とおっしゃって、そのあくる日、急いで外出なさったところ、観音堂のすぐそばまでお行きになったとき、空模様がいかにも不気味になって、また雲が垂れこめてきて激しい勢いで雨が降り出したので、御堂にしばらく雨宿りなさって、

 こゝは猶 丹生の社に 程近し 祈らば晴よ 五月雨の空

とお詠みになると、そのとき突然に晴れ上がったばかりでなく、日差しも明るくのどかになって、それ以降は雨も降らなかったのであった。帝徳がすばらしくていらっしゃるのを人々は心強く思っていたのだったが。


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