中納言藤房卿捨文の事
 
同じ頃、洞院実世卿のもとに子どもの召使が手紙を持ってきましたのでご覧になると、

 君がすむ やどのあたりを 来て見れば 昔に湿らす 墨染の袖

と、昔の筆蹟も変わらずに記してありました。「あっ、これは」と驚かれてその子どもを呼んでお尋ねになると、

 「今朝がた西の野に出て草を刈っておりますと、やせ細った修行者が『この手紙をお届けしてくれ』とおっしゃいました」

と言います。実世卿は急いで参内して奏上し、先帝は大和・紀伊・河内の各関所に勅令を下して修行者を足止めさせられましたが、該当する人物はいませんでした。藤房入道の手紙でありました。


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