応永五年、柏坂の戦 一
 
同五年の春、宇津野をお出になって上野国に赴こうとなさっていたところに鎌倉の兵どもが宮を襲ってきた。十二郷の兵たちは柏坂で防戦した。宮は鈴木越後守が丸山の館にお連れし、桃井和泉守貞職ら四家七党がお守りした。敵は数日間館を包囲して攻撃していたが、宮方が四方より蹶起して鈴木に加勢したので味方は優勢であった。

そこで桃井和泉守貞職は丸山館を出て鈴木のことは気にかけずに、鎌倉勢の大将・上杉三郎重方や嶋崎大炊亮の陣へ打ちかかって、主従百五十余騎が上杉の陣の真ん中へ斬りこんだ。上杉の兵五千余騎は桃井に追い立てられ、上杉の郎党・長野安房守も討たれ、戦い疲れて引き退いたところを桃井和泉守はさらに追い討ちをかけていく。嶋崎は桃井が追っていった背後に回りこめと軍を右に振り向けるが、桃井はこれを見て手勢を二手に分けて一手を嶋崎の三百騎にさしむけ、残りの軍勢で上杉をさらに追っていった。

大橋・岡本・堀田・平野・天野らの計二百余騎は嶋崎に立ち向かって戦う。嶋崎も前後より包囲されては形勢が悪いと思ったのか、手勢を徐々にとりまとめて引いて一騎も討たれずに山際まで退却したのだった。上杉は二百余騎ほど討たれたが、その夜は上の一色に陣を敷き、桃井も陣を引き払って帰ってきた。


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