□ 同局芳野川にて高名の事 |
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先年、武蔵守師直が皇居を襲撃した時のことでありました。防ぐべき手段もありませんでしたので、吉野の方々はさらに山深いところに逃げたのでありました。女院のお供には頼もしい侍もお付きせず、女房たちばかりでありました。 さて、吉野川にかかるある橋が、一間ほど欠け落ちています。なすすべもなく、みな途方にくれて突っ立っていますと、伊賀局が、傍らにあった松や桜の大木を引き折っては川の上に架け渡します。そして女院を背負ってさしあげて、他の人々をも無事に渡らせたのです。その時と同じくらいの大木を、園部の六郎に折らせてみたのですが、折ることができなかったのでした。たいへん立派なことです。 この局は、今は左馬頭正儀の妻になっています。 |
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