詠歌の事
 
綾小路敦郷卿が久しぶりに訪問くださいました。たいへんうれしくお会いしました。たくさんの言葉を書きつけて

 「山家雲、山家雨という風情を詠んでみましょうか」

とおふざけになります。私は昔から無教養ですのでいまさら詠めるはずもなく、しかしあまりお断りするのも悪いように思われて、

   山家雲  山家雨
 よそに見て 住まれんものか 山里の 雲さへかへる 夕暮のそら
 つれづれも 絶えて住みける 山里の 軒端もくづる 雨の音かな


源康村がこの歌を見て、

 「幸運ですな」

とからかったときには、実に恥かしかったです。


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