登惧法師の事
 
登惧法師は大館氏明どのの猶子です。わが家にやって来て仏法の話など健気にお説きになり、その後は音楽の話をはじめられました。

 「若い頃より琵琶を弾いておりましたが、たいへんできの悪い楽器で思い通りには弾けませんでした。しかし怠けることなく励んでおりますと、何とか身についたように思えます。
 胡の国では胡沙といって、草木も生えない砂ばかりの土地がたくさんあります。そこに住むものは月夜になれば友を誘って胡沙にやって来て、馬に乗りながら琵琶を弾くそうです。その音色は大風が吹くようで、少し遠いところまで聞こえてくるとか申します。とてもすばらしいことです。人間と生まれたからには、まずこの技を心がけたいものだと書物にもありました。
 鴨長明が道人といわれたのは、音楽・和歌を深く心がけて他人の心をやわらげたので、世間が、あの人は立派な人だといったのです。感心なことですね」


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